レスポンシブWebデザイン導入時にありがちな安易な思い込み ー 既存サイトのコンテンツをそっくりそのままレスポンシブに変えればOKでしょ? ー という考えに警鐘を鳴らす記事。そうではなく、レスポンシブ導入をむしろサイト改善の好機と捉え、正しい戦略に基づいたコンテンツの見直し、ワークフローの修正、システムの見直し等に時間を割いた方が、最終的には良い結果が生まれると指摘している。

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レスポンシブWebデザインではコンテンツの問題点は直せない

しばらく前、大企業のデジタル・チームと話す機会があり、彼らのコンテンツがスマートフォンやタブレット、デスクトップといったインターフェイスでもうまく動くようにするために、コンテンツの制作、見直し、公開で直面しそうな課題をいくつかまとめてみたことがある。

その課題とは以下だ:

  • コンテンツが役に立つか、価値があるか、モバイルに(さらに言うならデスクトップにも)本当に載せるに値するか、判断すること
  • 異なるデバイスにおけるそれぞれ「1ページ」に表示可能なコンテンツの量を査定し、形状が異なるデバイス間でうまくバランスを取ること
  • 見出しやティーザー、本文テキストには複数のパターンを作り、重要な情報が突然カットされたりしないようにすること
  • アセットのいくつかについて代替バージョンを用意すること(例えば、異なるイメージサイズやクロップのもの、大きなインフォグラフィックスあるいは表テーブルに代わるもの、デスクトップとモバイル両方のインターフェイスを見せる新しいデモ動画、など)
  • コンテンツとマークアップが一緒くたに括られてしまわないよう、見かけとコンテンツをCMSの中ではっきりと切り分けておくこと

出席者の一人が挙手して言った。「いつレスポンシブWebデザインの話になるんですか?私達はレスポンシブ・デザインを使おうと思っているんです。」それに対する私の答えは、「ええと、レスポンシブ・デザインではあなたのコンテンツの問題点は直せませんよ」だ。

そんな風に考えているのは誰?

私は最近、レスポンシブ・デザインを「お粗末なコンテンツ戦略」と呼ぶ記事へのリンクを張った。すると私のTwitterフィードは、この2つを一緒くたに考える人などいないと嘆いたり呆れたりする人達の声で溢れかえった。もちろん、誰だって、コンテナとその中に入っているものとがイコールでないこと位知っている。誰だって、デスクトップのモジュールをちょっと並べ替えて伸縮可能にしただけでは、モバイル向けコンテンツ戦略としては十分ではないことを知っている。誰だって、レスポンシブ・デザインで提供可能なレイアウト的解決策を越えたところに問題がある場合には、それはレスポンシブ・デザイン技術の瑕疵ではないことを知っている

ところが、すべての人がそれを知っているわけではないのだ。以下は、多額な予算と熱心なスタッフ、上層部の協力まで揃った、大企業のモバイル・サイト・プロジェクトに携わっている人達から、私が最近聞いたエピソードの内のごく一部だ:

  • 私達は最近CMSのプラットフォーム変更という一大プロジェクトを完了した。その中で必要に迫られてデスクトップWebサイトのデザインも変更した。今ここでもう一度、コンテンツの構成や編集、事業関係者や法務審理部からの承認、というプロセスをやり直そうという気は起こらない。つまり、私達がモバイルで何をすることにしたとしても、そのコンテンツは新しいデスクトップWebサイトに載っているのとそっくり同じでなくてはだめだ。
  • 私達は、既存のデスクトップWebサイトをレスポンシブに変更するために、[信じがたい巨額をここに挿入]ドルを費やしたばかりだ。既にあるものを元にやった方が、ずっと早くずっと簡単にできると固く信じていたんだ。でもプロジェクトは難航していて、おそらく全部無駄にしてやり直さないといけない。もし6ヶ月前、一から始めていたら、きっともっとうまく行ってだろう。
  • 私は新しくレスポンシブWebデザインのサイトを構築するためのデベロッパーとして採用された。しかし、自分が適任だとは思えないような、コンテンツの編集や再構成に関する様々な判断までも求められている。クライアントには、コンテンツ担当の人を入れるよう訴えているが、でも彼らは、レスポンシブWebデザインとは、単にフロントエンドのデザインと開発の問題だと思ってしまっているんだ。
  • 弊社上層部は、レスポンシブにするとの決断を下した後は、それ以外の判断はすべて戦術レベルの些末事だと思い込んでいる。しかし実際には、レスポンシブWebデザインの導入により、私達のビジネスの中核や仕事の進め方に直結するような課題が提起されている。弊社の検討・承認のプロセスやCMS、アセット管理システムやデザイン標準、ガバナンスを修正しなければならない。また、時代遅れで役に立たなくなったコンテンツを整理する必要もある。しかし、これらのより大きな問題の解決に向けて社員を動かすのは難しい。なぜなら皆、これらの問題が「レスポンシブWebデザイン」の一部だとは思っていないのだから。

レスポンシブWebデザインを使いさえすればコンテンツの問題には目をつぶったままでもモバイルサイトは作れる、と錯覚している人が多いようだ。

そんなバカげた考えを一体どこで身につけたのか?

私達が彼らにそう言ったのだ。まあその、確かに彼らはちょっと不思議な考え方をしている。でも正直に言って、私達が彼らに、モバイルサイトはデスクトップサイトと同じであるべきだし、だからこそレスポンシブWebサイトを使うべきだ、と言ったのもまた事実だ。私達は彼らに、ただ一組のコンテンツを管理運用しさえすれば、それがすべてのデバイスでうまく動くと請け合うことで、レスポンシブ・デザインの価値を彼らに売り込んできたのだ。

私達はまた、プラットフォーム毎に違うコンテンツを提供する必要はないとも言っている。私達は、誰かが(実際正しい判断で)モバイルデバイスには違うコンテンツもしくは少ないコンテンツを表示させようと言い出すと、びくびく落ち着かない気分になった。そして彼らに向かって、スクリーンサイズやデバイスの種類を知っただけではユーザーのコンテキストや意図など理解できやしないと指摘した。また、レスポンシブWebデザインのサイトの開発にあたって最高に重要なのはコンテンツ・パリティ(コンテンツの同等性)だとも言った。

彼らが既存サイトを元に、それにレスポンシブという魔法の杖を振れば、既存コンテンツが自動的にモバイルでも使えるようになると推測(期待?)したとしても、それに一体何の不思議があるだろう?なぜ、異なる必要があるのか?私達はかつて、異なるべきではないと彼らに言っているのだ。

「モバイルファースト」のアプローチをとりたい企業ですらも、デスクトップコンテンツの足枷からそう簡単に自由になることはできない。ある企業にとっては、新しいコンテンツによる「フレッシュ・スタート」を提案することは、利害関係者や利益相反といった政治的に非常にセンシティブなエリアに足を踏み入れることで、会社としての自殺行為に等しいだろう。新しいアプローチをするべき時だと認める企業もあるだろうが、既存コンテンツをレスポンシブ・デザインに適したものに変えるためには、既存コンテンツの整理や再構成というプロセスを経なくてはいけない。レスポンシブ・デザインでは、コンテンツの問題を解決することはできない ー それはコンテンツ戦略の役目だ。

レスポンシブ・デザイン + コンテンツ戦略 = 永遠の親友

すべてのレスポンシブWebデザイン・プロジェクトは、コンテンツ戦略プロジェクトでもあると認識すべき時だ。ここで、何を重視したらいいのか分からないデザイナーとデベロッパーのために、要点をまとめてみた。

コンテンツの見直しが不可欠

長期的な目標はすべてのプラットフォームで同一なコンテンツを提供することだとしても、既存のコンテンツをただそのまま使うことはできない。賢明な会社なら、この機会を利用して、ずっと前に済ませておくべきだったデスクトップコンテンツの整理と削減を行うだろう。コンテンツとその公開プロセスを見直すのに、これ以上の機会はない。

レガシーシステム対応の可能性

レスポンシブWebデザインには、「モバイル」の問題をフロントエンド上だけで完全に解決できるのでは、という熱い期待が寄せられている。フロントエンドはバックエンドに比べると格段に柔軟で、もちろん私達はフロントエンドから取りかかりたい。しかし、多くのレスポンシブ・プロジェクトで、コンテンツやデータの構造や、それらがCMSもしくは他のレガシーシステムから公開される方法について、変更の必要がある。APIへのアプローチが必要な場合もあるだろう。もしくは、CMSやアセット管理システムの抜本的見直しが必要となる場合も多い。

まずはエディトリアル・ワークフローの策定

コンテンツがデザインを形作る(その逆もしかり)、という「卵が先か鶏が先か」の問題は更に大きくなった ― 「卵が先かダチョウが先か」問題と呼ぼう。レスポンシブ・デザイン・ワークフローや、デザインの成果物やプロセスがどう変わるべきかについては頭の切れる人達なら既に打ち合わせ済みだろうが、エディトリアル・ワークフローについても注意を払っておく必要がある。コンテンツの移動・編集・再構築を、コンテンツチームがいつどのように実施するかをきちんと計画しておくことで、みなでコンテンツとデザインが一体となってうまく機能するよう進めていきやすくなる。ワイヤーフレームやコンプといったデザイン成果物は進化している ー コンテンツチームも、このプロセスを管理するのに、エクセル表やワード文書への依存を止めて進化していく必要がある。

すべてを編集する時間はない

どんなに熱心で意欲的なチームでも、既存のデスクトップWebサイトの全ページを見直して、再構築するような余裕はまずないだろう。どこに集中するか(そしてどこを諦めるか)について、十分な知見に基づいた現実的な判断があれば、計画全般と移行プロセス、デザイン関係の判断がやりやすくなる。また、この点については早めに認めておいた方が、すべて完璧という訳にはいかないことをチームや利害関係者に了解してもらいやすくなるだろう。

長期的ガバナンスを考慮

レスポンシブ・デザインはまた、あなたのデザイン標準やガバナンスモデルを修正してくれるものでもないが、しかし私達はやはり長期的メンテナンスを目標の一つに入れないといけない。私はあるグループから、デザインシステムの策定と強化なしにはレスポンシブ・デザインの導入は不可能だ、と自らの会社を説得することに成功したという話を聞いたことがある。同じ議論が、コンテンツ標準順守の発展と推進についても当てはまるだろう。

レスポンシブ・デザインそれ自体ではコンテンツの問題は解決できないし、できると言った人もない。しかし、サイトをレスポンシブにデザインし直す時というのは、コンテンツとその背後にある戦略とを見直す好機でもある。新しいサイトをデザインしている時、同時にコンテンツも編集しプロセスとシステムも修正するというのは、複雑になりすぎると思うかもしれない。しかし実際のところ、これらの問題の解決を先送りにしても、それは更に仕事を難しくするだけだ。賢明な組織であれば、これを好機と見て、マイナスとは捉えない。この機会を利用して、単に伸び縮みするサイトではなく、より良いサイトを作ろうとするだろう。